知らないうちに相続していて困ったお話

相続

先日、親戚(大阪在住)と会う機会がありました。
その際、
「田舎(四国)の法務局から『立会通知書』という書類が届いた。どうしたらいいか。」
と相談されました。

「立会通知書」とは、何らかの理由で土地の境界を確認する必要が生じた場合に、その境界に隣接する土地の所有者に対し、境界確認の立会いを依頼する通知書です。
この土地について全く心当たりのない親戚は、なぜ自分に立会通知書が届いたのかわからない、と相談をしてきたわけです。

立会通知書を拝見したところ、説明書きも併せて4~5枚の用紙が入っています。
内容を確認したら、該当する不動産の「登記簿上の名義人」の記載があり、この親戚が「登記簿上の名義人の法定相続人のうちの一人」に該当することから立会通知書が送付されてきたことがわかりました。
「登記簿上の名義人」の名前に心当たりがあるかを聞いたところ、
「苗字は実の母親のものと一緒だが、母親とは名前が違う。全く知らない人。」
とのことでした。
この方(70代後半)は、両親が離婚した3~4歳以降は父親と一緒に暮らしており、その後父親が再婚したこともあり、実の母親とは3~4歳以降一度も会っていないとのことで、その消息について耳に入ってきたこともないそうです。

他の話も合わせて考えると、おそらく、その方の母親が亡くなったことで、母親の再婚後に生まれた子(登記簿上の名義人)が該当不動産を相続したが、配偶者や子がいない状況でその登記簿上の名義人も亡くなってしまったため、異父兄姉であるその親戚が法定相続人になってしまったのでしょう。

その方は
「関わりあいたくない。ややこしいことに巻き込まれたくないので所有権はいらない。」
と言っています。
では、どのような手続きを採ることが考えられるでしょうか。

立会いについて

今回、法務局から立会依頼の通知がきましたが、境界の立会いのために70代後半の方が大阪から四国へ出向くというのは無理があります。
そこで、法務局に電話をして事情を話し、近くに住んでいるであろう他の法定相続人に立会いをお願いしてほしい旨を伝えました。

所有権について

放置する

これまで自分が相続していることも知らず、問題なく過ごせてきたのだから、このまま放っておいても大丈夫なのではないか、と思うかもしれません。
しかし、放置は問題解決を先延ばしするだけです。
そして、相続問題の放置は、数次相続を発生させ、問題をよりややこしくすることになります。
今回のケースでこのままこの相続問題を放置しておくと、この親戚の方が亡くなったときにその相続人らがまたこの問題を引き継ぐことになります。該当不動産の法定相続人の人数が増えていく一方です。
そして、放置し続けるとゆくゆくは私の子どもたちがそこに巻き込まれることに…
それだけは何としても避けたいので、今のうちに何とか手を打ちたいわけです。


共有持分の放棄

この親戚の方が該当不動産の「法定相続人の一人」に該当するということは、他にも法定相続人がおり、不動産は共有状態であるということです。
(法務局に電話をした際、他の法定相続人は何人いるのか等聞いてみたのですが、教えてもらえませんでした。)
共有者がいるのであれば、民法第255条の「持分放棄」をするという選択肢が考えられます。
しかし、持分放棄をするということは、いったんその相続を受け入れて所有権を取得したうえで、持分放棄の登記手続をする必要があります。
これまで全く関わりなく過ごしてきた親戚や不動産について、これからも関わりなく過ごすために親族関係を調査し持分放棄の登記手続きをしなければならない、その手間や費用がかかることに納得ができない、という気持ちには理解ができます。

相続土地国庫帰属制度

令和5年4月27日から、相続した土地を国が引き取る制度である「相続土地国庫帰属制度」が始まりました。
この制度の申請をするには共有者全員でする必要がありますので、今回のケースのように「自分だけ共有から外れたい」という場合には使うことができません。
また、この制度は負担金が高額であるというデメリットもあります。

相続土地国庫帰属制度については、法務省のHPをご覧ください。⇒こちら

無償又は有償で譲渡する

該当不動産の共有者(登記簿上の名義人の他の法定相続人)を探し出し、その方に共有持分を譲渡する、という方法があります。
今回のケースでは、該当不動産が市街地にあったことから、法定相続人の一人が該当不動産を利用していることも十分考えられます。
「(費用がかかるのはイヤだけれども)お金はいらないから、とにかく早く手放したい」
というのが親戚の要望でしたので、今回のケースでは、まず該当不動産を利用している可能性がある法定相続人を探し出し、共有持分を譲渡するという方法を採ることになりました。


この方法ですと、譲渡相手との間で「相続分譲渡証書」を作成することで、自ら登記手続きをする必要がなくなります。

ただ、譲渡相手となる法定相続人を探し出せるのか、という点が不確定要素です。
そこで、探し出せなかったときのために、相続放棄の手続きの準備もすることにしました。

相続放棄

相続放棄手続きは、共有者である実の母親とつながりのある親戚と連絡を取ることなく、家庭裁判所に必要書類を提出することで行うことができます。

相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」(民法第915条)ならばすることができます。「相続の開始があったことを知ったとき」とは、相続人が亡くなったことを知ったときのことです。

実の母親は、年齢的にもう亡くなっているだろうと思ってはいたけど、実際に亡くなっていたという事実は知りませんでした。戸籍謄本を確認したわけではないので、今もまだ憶測の状態です。また「登記簿上の名義人」については、どういったつながりの方なのかもわからない状況です。
今回のケースですと、まだ「相続の開始があったことを知ったとき」にあたらない可能性があります。
ただ、立会通知書が届いた時点で「相続の開始があったことを知ったとき」に該当する可能性もありますので、早急に相続放棄手続きをする必要があります。

相続放棄手続きには相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を提出する必要があるのですが、この件では収集する戸籍謄本の本籍地がほとんど四国である可能性が高く、またその数も多いことが予想されるため、大阪から郵便で請求手続きをするのには時間がかかります。
しかし! 令和6年3月1日から「戸籍謄本等の広域交付」が始まります。
今回のケースですと、実の母親の戸籍謄本については最寄りの役所の窓口でまとめて請求することができます。

兄弟姉妹の戸籍謄本については広域交付の対象外ですので、これらについてはこれまでどおり郵送で請求する必要がありますが、それでも収集時間は大幅に短縮できると思います。


戸籍謄本等の広域交付についてはこちらの記事をご覧ください。⇒戸籍の請求が便利になります

まとめ

大阪に住んで50年以上。
「四国の不動産の法定相続人にあたるので、境界の立会いに来てください」
という立会通知書が来たら慌てますよね。
しかも、登記名義人が知らない人ならなおさら。

相続人が困るような、こういった状況を作らないためにはどうすればよかったのか。
そう!遺言書の作成です!
特に、配偶者や子どものいらっしゃらない方は、兄弟姉妹が法定相続人になりますので、ぜひとも遺言書を作成していただきたいです。

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