遺言書の重要性 ~事例をとおして

相続

「遺言書があれば」と思う事案を紹介します。

CASE1

20年以上前にご主人を亡くされ、お子様はいらっしゃらないご婦人。
死亡保険は請求されたようですが、それ以外のご主人名義の預貯金、不動産、有価証券などの財産は、相続手続きをすることなくそのままにされていました。
ご主人のご両親もご兄弟も、ご主人より前に亡くなられていたので、
「自分名義の財産はすべて妻のものになる」
と考えられていたのか、ご主人は遺言書を遺していらっしゃいませんでした。



こちらのご婦人の財産の整理をするために調査を始めたところ、ご主人には異母兄弟が数人いることが判明しました。
おそらくご婦人はお会いしたことがないでしょうし、その存在をご存じだったのかもわかりません。
でも、間違いなくご主人の財産の相続人にあたります。
そして、異母兄弟の方々は全員お亡くなりになっていたので、実際にご主人の相続人になるのは異母兄弟の子などになります。
現在戸籍を取り寄せて調査中なのですが、ご主人と異母兄弟のどちらが先に亡くなったのかによって相続人になる方が変わってくるところも、相続手続きのややこしい点です。


ご主人名義の預貯金、不動産や有価証券などの財産をご婦人の名義に変更する予定でしたが、ご婦人以外にも相続人がいることが判明したため、遺産分割協議が必要になりました。
異母兄弟の子の人数によっては、相続人が多数になる可能性もあります。
相続手続きは、相続人の人数が多くなればなるほど、事務手続きの点でも意見の集約の点でも大変になります。
このご婦人のケースでは、これから相続人の調査をしたうえで相続人を確定し、遺産分割協議をすることになるでしょう。
遺産分割協議をした結果、ご主人の財産のすべてがご婦人のものになるかは、現時点では不明です。


もしご主人が「すべての財産を妻に遺す」という内容の遺言書を書いていればどうなったでしょうか?
兄弟には遺留分を請求する権利は認められていませんので、法定相続人である異母兄弟について調査をする必要もなく、時間も手間もかかる遺産分割協議をする必要もなく、遺言書に従ってスムーズにご主人の財産をご婦人の名義に変更することができたでしょう。



このケースのように、遺言書で自分の想いを遺していたかどうかによって大きな違いが出てくるケースがとても多いです。

CASE2
独身でお子様がいらっしゃらない高齢のご婦人。
晩年は親戚の方と旅行に行ったり、お世話をしてもらいながら、穏やかに暮らされていました。
ご婦人には法定相続人にあたる方がいらっしゃらなかったこともあり、仲良くされていた親戚の方にその財産を譲るつもりだと、日ごろからまわりの方に伝えていらっしゃったようです。
ところが、遺言書を書く前に亡くなってしまいました。



法定相続人がいないご婦人の財産は、原則としてはすべて国庫に帰属することになります。
しかし、それはご婦人のご遺志とは異なります。
そこで、ご婦人が財産を渡したいと思っていた親戚の方は、周りからのすすめで「特別縁故者の申立て」をすることにしました。


「特別縁故者の申立て」や「特別寄与料の請求」のように、遺言書を遺していない場合でも、特別な関係にあったと認められる人に財産を渡す方法はあります。
しかし、財産を受け取ろうとする人が手続きをする必要があり、時間も手間もかかります。
確実に認められるわけでもありません。

このケースでも、ご婦人が遺言書にその想いを書き遺していれば、親戚の方にスムーズに財産をお渡しできたでしょう。

その言動から、ご婦人には遺言書を遺す意思がありながら、遺すことができなかったのだと思われます。
遺言書は身体も心も健康な状態で書くことが大事です。
「まだ元気だからいいや」ではなく、元気な今だからこそ書いていただきたいです。
あとで心変わりして書き直したくなるかもしれません。
そのときは何回でも変更できますのでご安心ください。
遺言書があるのとないのとでは、全然違います。
まず作成することが大事だと思います。

遺言書を書くことを、めんどうに思うこともあるかもしれません。
残った人たちで好きに分けてくれればいい、という気持ちもあるかもしれません。
遺言書を書かない理由を探せば、いくつでも出てきそうです。
でも「残していく大事な人のために」遺言書を書いてみませんか?

当事務所では、財産だけでなく「想い」を遺すための遺言書の作成のお手伝いをさせていただいています。

(上記のケースは、実際の事案に変更・加工を加えたものを掲載しています。)





PAGE TOP