非常災害対策計画と消防計画の関係

障がい福祉

各防災計画の関係

障害福祉サービス事業所(訪問系を除く)・障害児入所施設・障害児通所支援事業所(あわせて以下「事業所」といいます。)は、防災に関する主な計画として、次のものの作成が義務付けられています。

A 「非常災害対策計画」の作成及び避難訓練の実施
B 「消防計画」の作成等
C 「避難確保計画」の作成、市町村への提出及び避難訓練の実施

この3つはどのような関係にあるのでしょうか。

基準省令の解釈通知では

「非常災害に関する具体的計画」とは
①消防法施行規則第3条に規定する消防計画(これに準ずる計画を含む。)
➁風水害、地震等の災害に対処するための計画
をいう

とされています。

災害には、地震、津波、風水害等の自然災害や、火災、ガス爆発等の人的災害等様々なものがあります。
大まかには
上記①の消防法による消防計画は、火災、ガス爆発等を想定したうえで策定するもの
上記➁の計画は、地震、津波、風水害等の自然災害を想定したうえで策定するもの
と分けることができますが、消防法第1条に

この法律は、火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行い、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的とする。

と定められていることから、地震等の自然災害による被害についても上記①の消防法による消防計画において想定すべきということになります。

上記の基準省令解釈通知によると、①の消防法による消防計画と、➁の自然災害に対処するための計画を合わせて「非常災害対策計画」ということになり、消防計画は、非常災害対策計画に含まれているという関係になります。

Cの避難確保計画の作成及び避難訓練の実施については、上記➁の計画に含まれているものということができます。

消防法に基づく消防計画・消防訓練

防火管理者が定められた事業所は、消防計画を策定し、消火訓練及び避難訓練を年2回以上実施する必要があります
ここではその根拠法令や訓練のポイントを見ていきます。

根拠法令

消防計画・通報訓練

商業施設、オフィスビル、学校、病院、工場、集合住宅など、多くの人が利用する場所や火災のリスクが高い防火対象物については、防火管理者を定めることとされています。
防火管理者は、「防火対象物について消防計画の作成、当該消防計画に基づく消火、通報及び避難の訓練の実施」その他防火管理上必要な業務を行わなければならないと定められています。
つまり、防火管理者がいる防火対象物である事業所については、消防法に基づく消防計画の策定義務及び訓練実施義務があるということです。

下記の消火訓練及び避難訓練とは異なり、消防法上、通報訓練については必要な回数は決められておらず、消防計画に定めた回数の訓練を実施することが求められています。
しかし、どの自治体も「年に1回以上は実施してください」としていることから、年に1回以上の通報訓練を消防計画に組み込んでいただければと思います。

なお、防火管理者がいない事業所については、消防法に基づく消防計画の策定義務はありません。
その場合は、非常災害対策計画において、火災に対する内容を策定する義務があります。

防火管理者の設置が必要な防火対象物かどうかの判断は難しいことが多いですので、消防署にご確認いただければと思います。
参考  東京消防庁 防火管理者が必要な防火対象物と資格

消火訓練・避難訓練

障害福祉サービス事業所・障害児入所施設・障害児通所支援事業所は、消防法施行令の別表第1で「(六)項」に該当します。
この「(六)項」にあたる防火対象物については、消防法施行規則第3条第10項で「消火訓練及び避難訓練を年2回以上実施しなければならない」と定められています。
そこで、防火管理者がいる事業所は消火訓練及び避難訓練を年2回以上実施しなければならない、ということになります。

消火訓練及び避難訓練を実施する場合には、事前に「消防訓練通知書」等の定められた書式を使用して、管轄消防署へ提出ください

訓練のポイント

消火訓練

消火器具の取扱いや屋内消火栓設備などを使用した初期消火を目的とした訓練をいいます。
・消火器の使い方を覚えておきましょう
・消火器の特性を知っておきましょう
・屋内消火栓の使い方を覚えておきましょう

避難訓練

建物内の人に火災などの発生を知らせ、安全な場所まで避難および誘導をするなどの訓練をいいます。
・建物からの避難経路や、避難後の集合先を決めておきましょう
・避難後の点呼方法を考えておきましょう

通報訓練

火災の発生に気づいてから、電話による119番通報などの対応訓練をいいます。
通報内容をまとめておきましょう

119番受付員通報者
火事ですか、救急ですか火事です
場所はどこですか〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇号です
何が燃えていますか〇〇が燃えています
あなたの名前と
今かけている電話の番号を教えてください
私の名前は〇〇〇〇です
電話番号は〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇です

総合訓練・部分訓練

火災の発生から消防隊到着までの一連の自衛消防活動について、消火訓練・避難訓練・通報訓練のすべてを含んだ総合訓練を年に1回は実施し、消火訓練・避難訓練の部分訓練を年に1回は実施しましょう。
具体的な訓練の実施方法に不安がある場合や、消防職員の立会いを希望される場合は、管轄の消防署の予防課へご相談ください。

訓練実施後

訓練を実施した後は、「防火管理維持台帳」などに実施日時や実施内容などを確実に記録し、訓練実施状況を客観的に確認できるようにしてください。

火災の通報を受けてから消防車が到着するまで、平均約7分かかります。
この間、利用者を火災による被害から守るために、年に2回以上はしっかりと消防訓練を行いましょう。

非常災害対策計画

非常災害対策計画の策定義務

冒頭に記載したとおり、事業所には非常災害対策計画の策定が義務付けられています。
そして、その基準等については、都道府県、政令指定都市及び中核市において条例で定めることとなっています。
条例では、事業者等が「火災」「風水害(水害や土砂災害)」「地震」等に対処するための非常災害対策計画を立てること、当該計画等の内容を従業者に周知させるとともに、定期的に避難訓練、救出訓練その他の必要な訓練を行うこと等が義務付けられています。
火災について、消防法に基づく消防計画の策定義務がある事業所については、消防計画を消防署に提出している場合は、新たに火災に対する非常災害対策計画を策定する必要はありません。
消防計画策定義務がない事業所については、非常災害対策計画において、火災に対する内容を策定する義務があります。

非常災害対策計画の具体的項目例

  • 事業所の立地条件(地形等)
  • 災害に関する情報の入手方法(「避難準備情報」等の情報の入手方法の確認等)
  • 災害時の連絡先及び通信手段の確認(自治体、家族、職員 等)
  • 避難を開始する時期、判断基準(「避難準備情報発令」時 等)
  • 避難場所(市町村が指定する避難場所、施設内の安全なスペース 等)
  • 避難経路(避難場所までのルート(複数)、所要時間 等)
  • 避難方法(利用者ごとの避難方法(車いす、徒歩等) 等)
  • 災害時の人員体制、指揮系統(災害時の参集方法、役割分担、避難に必要な職員数等)
  • 関係機関との連携体制

なお、非常災害対策計画に、避難確保計画にのみ記載が求められている次の2点を含めて作成することで、避難確保計画を作成したとみなすことが可能です。
①避難確保を図るための施設の整備
➁防災教育及び訓練の実施
非常災害対策計画と避難確保計画を一元化して作成した場合には、こちらの計画を市町村長へ報告してください。

計画の周知

作成した非常災害対策計画について、職員に周知徹底を図り、関係機関と避難場所や災害時の連絡体制等必要な事項について、認識を共有するようにしましょう。

非常災害対策計画に基づく訓練の実施

火災、風水害及び地震の発生を想定した避難訓練を定期的(少なくとも年1回以上)実施してください。
なお、上記のとおり、消防計画作成義務がある事業所については、消防法令に基づき、火災に対する消火訓練及び避難訓練を年2回以上、通報訓練を年1回以上実施することが必要です。

避難訓練には、市町村の防災担当課又は福祉担当課、消防その他の防災関係機関等の協力を得て実施するように努めましょう。
また、非常災害が発生した場合は地域住民の協力が必要になる場合があるので、避難訓練の実施にあたっては、地域住民にも参加していただけるように努めていただければと思います。

避難訓練実施後は、実施内容を記録したうえで、訓練内容を振り返り、必要に応じて計画の見直し等を行うことが望ましいです。

まとめ

事業所には「非常災害対策計画」の作成が義務付けられているものの、それ以外にも防災関係の計画や通知が数多いことから、整理をしてみました。

A 「非常災害対策計画」の作成及び避難訓練の実施
B 「消防計画」の作成等
C 「避難確保計画」の作成、市町村への提出及び避難訓練の実施

上記ABCの計画は、各計画の項目を網羅すること等で一体的に作成することが可能です。
ただ、消防計画は、消防法に基づき既に作成している事業所が多いこと、A「非常災害対策計画」とC「避難確保計画」は記載項目がほぼ同じであることから、A「非常災害対策計画」とC「避難確保計画」の2つを一体で作成することが多いようです。

業務継続計画(BCP)」の自然災害BCPについても、上記ABCの計画と一体的に作成することができます。
ただ、自然災害BCPは感染症BCPと一体的に作成し、併せて研修及び訓練をすることができることから、BCPとしてまとめることとして、上記ABCの計画とは別に作成する方がいいでしょう。

近年、風水害等の自然災害が多く発生しています。
事業所の職員全員で話し合いながら、実際に災害が起こった際に利用者の安全が確保できる、実行性のある計画を作成していただきたいと思います。

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