障がい福祉サービスの業務継続計画(BCP)

障がい福祉

令和6年度からBCPの策定が義務になっています

障がい福祉サービスは、障害者、障害児、及びその家族等の生活を支えるうえで欠かせないものです。
昨今、大規模な災害や感染症の発生がみられる中、施設・事業所等において、自然災害や感染症の発生時に適切な対応を行い、その後も利用者に必要なサービスを継続的に提供できる体制を構築することが重要です。
こうした観点から、すべての障害福祉サービス等事業者を対象に、2024年度(令和6年度)から、業務継続計画(BCP)の策定や研修・訓練の実施等が義務化されました。

業務継続計画(BCP)とは

BCPとは
大地震等の自然災害、感染症のまん延など不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順等を示した計画のことです。

「平常時の対応」「緊急時の対応」の検討を通して、①自然災害や感染症の発生時の事業活動レベルの落ち込みを小さくし、復旧に要する時間を短くすることを目的に作成します。

自然災害や感染症が発生した場合、障害福祉サービス事業所では一般に「建物設備の損壊」「社会インフラの停止」「対応業務の発生などによる人手不足」などにより、利用者へのサービス提供が困難になると考えられています。
利用者にとって、サービス提供が困難になることは生活・健康・生命の支障に直結します。
利用者の生活・健康・生命を守る機能を有する障がい福祉サービス等は、他の業種よりもサービス提供の維持・継続の必要性が高く、BCP策定など、自然災害や感染症の発生時の対応について準備することが求められます。

自然災害BCP感染症BCP

大地震をはじめとした自然災害と感染症では、被害の対象や期間などに違いがあります。
自然災害対策と比較した場合の感染症対策の特徴は、以下の3点です。

  • 情報を正確に入手し、その都度、的確に判断していくことが重要
    感染の流行影響は、不確実性が高く予測が困難です。それでも、利用者・職員への感染リスク、業務を継続する社会的責任、事業所を運営していくための収入の確保などの観点を踏まえて業務継続レベルを判断していく必要があります。そのため、正確な情報を収集し、その都度的確に判断を下していくことが事業者には求められます。
  • 業務継続は、主にヒトのやりくりの問題
    建物設備やインフラなどに甚大な被害を及ぼす自然災害と違い、感染症ではヒトへの影響が大きくなります。そのため、感染拡大時の職員確保策をあらかじめ検討しておくことが重要です。
    また、物流の混乱などの理由から感染予防に必要な物資の不足が起こりうることから、平常時から備蓄を進めておくことが必要です。
  • 感染防止策が重要
    上述の職員確保策に加え、感染防止策についてもあらかじめ検討し、適切に実施しておくことが重要です。

また、自然災害発生時と感染症発生時とでは、業務量の時間的推移も異なってきます。
自然災害が発生すると、インフラ停止などによる通常業務の休止や、避難誘導・安否確認などによる災害時業務の発生のため、通常の業務量が急減します。
一方、感染症は国内で感染が拡大し始めると、自身が感染したり、濃厚接触者になる等により出勤できなくなる職員が出てきますが、通常業務が急減することはなく、むしろ感染対策等の業務が一時的に増加し、その後対応可能な業務量が徐々に減少していくものと推定されます。
そこで、感染症BCPでは、職員不足時においては健康・身体・生命を守る機能を優先的に維持しつつ、感染者(感染疑いを含む)が事業所内で発生した場合においても、サービス提供を継続させることが目的となります。

このように、自然災害発生時と感染症発生時とでは事業所の対応が大きくことなることから、それぞれの場合に備えたBCPを策定する必要があります。

2024年度(令和6年度)の報酬改定により、非常災害または感染症のいずれかのBCPが未策定の場合、基本報酬が減算されることになりました。
これにより、事業所としては非常災害時に対応するためのBCPと、感染症発生時に対応するためのBCP、両方のBCPを策定する必要があります。
なお、これらのBCPは一体的に策定することができます。

BCPの策定単位

BCPは施設・事業所等単位で策定することが前提となっています。
複数の施設・事業所等を持つ法人は、法人本部としてのBCPも別途策定することが望まれます。
その際、法人本部は各施設・事業所等と連携しながらBCPを策定する必要があります。

BCP策定のポイント

1 正確な情報集約と判断ができる体制を構築【自然災害・感染症】

自然災害発生時・感染者発生時の迅速な対応には、平時と緊急時の情報収集・共有体制や、情報伝達フロー等の構築がポイントになります。
そのためには、全体の意思決定者と各業務の担当者(誰が、何をするか)を決めておくこと、関係者の連絡先、連絡フローの整理が重要です。

2 「事前の対策」と「被災時の対策」に分けて、同時に対策を準備【自然災害】

事前の対策(平常時の対応)

自然災害発生時にはできることは限られます。
被害の拡大を防止するためにも、どれだけの準備をしておくかが重要です。
事前の対策としては次の事項が挙げられます。
・設備・機器・什器の耐震固定
・浸水による危険性の確認
・インフラが停止した場合のバックアップ など

被災時の対策(緊急時の対応)

自然災害が発生してから対応・対策を考え、決定し周知・確認することは困難であるため、事前に被災時にどう行動するかをルール化しておくことが重要です。
被災時の対策としては次の事項が挙げられます。
・人命安全のルール策定と徹底
・事業復旧に向けたルール策定と徹底
・初動対応
 ①利用者・職員の安否確認、安全確保
 ②建物・設備の被害点検
 ③職員の参集 など

3 職員確保【感染症】

職員が感染者や濃厚接触者となること等により職員が不足する場合があります。濃厚接触者とその他の利用者の支援等を行うに当たっては、可能な限り担当職員を分けることが望ましいですが、職員が不足した場合、こうした対応が困難となり交差感染のリスクが高まることから、適切な支援の提供だけではなく、感染対策の観点からも職員の確保は重要です。そのため、事業所内・法人内における職員確保体制の検討、関係団体や都道府県等への早めの応援依頼を行うことが重要です。

4 業務の優先順位の整理【自然災害・感染症】

場合によっては、限られた職員・設備でサービス提供を継続する必要があることも想定されます。そのため、可能な限り通常通りのサービス提供を行うことを念頭に、職員の出勤状況、被災状況に応じて優先度が高い業務から優先して行っていけるように、業務の優先順位を整理しておくことが重要です。

BCPに従った研修及び訓練(シミュレーション)

BCPを策定したら、災害発生時に迅速に行動ができるよう、関係者に周知し、平時から研修、訓練(シミュレーション)を行う必要があります。

2024年度(令和6年度)の報酬改定により、研修及び訓練(シミュレーション)を行っていないことも、BCP未策定減算の対象となります。

研修

研修は、BCPの具体的内容を職員間で共有するとともに、平常時の対応の必要性や、緊急時の対応にかかる理解を促す内容とします。
年に1回以上は開催するとともに、新規採用時には別に研修を実施することが望ましいです。
研修の実施内容については、実地指導での確認対象となりますので必ず記録をしておいてください。

なお、感染症BCPにかかる研修については、「感染症の予防及びまん延の防止のための研修」と一体的に実施することも可能です。

訓練(シミュレーション)

訓練(シミュレーション)においては、感染症や災害が発生した場合に迅速に行動できるよう、BCPに基づき、役割分担の確認、感染症や災害が発生した場合に実践する支援の演習等を年に1回以上は実施する必要があります。
訓練の実施内容についても、記録を残しておきましょう。
なお、感染症BCPにかかる訓練については、「感染症の予防及びまん延の防止のための訓練」と一体的に実施することも可能です。

BCPの策定はお早めに

BCPの未策定減算の経過措置として、令和7年3月31日までの間は「感染症の予防及びまん延の防止のための指針の整備」及び「非常災害に関する具体的計画」の両方の策定を行っている場合には、減算は適用されません。
「感染症の予防及びまん延の防止のための指針」を整備し、「非常災害に関する具体的計画」を策定済みの事業者様は、令和6年度中に①BCPの策定、➁研修・訓練(シミュレーション)を実施いただければと思います。

なお、例外として、「非常災害に関する具体的計画」の策定が求められていないサービス(訪問系など)については、令和7年3月31日までの間、減算の適用外です。

BCPを策定するには大変な時間・労力を必要とします。
経過措置の対象となっている事業所様も、なるべく早めにBCP策定をされることをおすすめいたします。

当事務所ではBCP作成サポートを行っております。
職員へ周知するための研修なども承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

【参考資料】
1 障害福祉サービス事業所等における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン
2 障害福祉サービス事業所等における自然災害発生時の業務継続ガイドライン

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